と。
言ってやりたい。べらんめえ口調で。
まあ、どうせ日本語は通じないだろう。
私は都内で働く30代の女。職あり。
またの名を「婚活で出来た彼氏がアメリカ人医師の投資家だと思って620万投資したけど実際はガーナ在住の詐欺師に騙されてた女」。ガーナて。
今回、私はあなたに向けてこの文章を作っている。思いの丈を熱くぶつけている。
主題はこうだ。
「恋愛ロマンス詐欺にはマジで気をつけろ!!!!!!」
これは、まごうことなき私自身の体験談である。
いつか印税で622万取り返したい。あと人の金で焼き肉に行きたい。
そしてこれから話すのは、愛おしい私の失敗談。
いや愛おしくは、ない。
感染症でテレワークが増えた私。SNS婚活に力を入れる毎日

「こと」の発端はテレワークだった。
元々IT系女子を自負する私の勤め先はテレワークに理解があり、緊急事態宣言が出たり引っ込んだりしている最初のあたりでさっさと全社的に導入してくれた。
しかし、ここで気づく。
「婚活の機会が無い」ということに。
オンライン飲み会といっても社内の飲み会だから、当然メンツは固定されてくる。
毎回毎回女子社員の部屋だとかパジャマを覗こうとするスケベ次長、ストロングなチューハイでイキって早々に退場する営業のT君、毎回ウイスキーをロックで飲んで酔いどれモテ天使のIちゃん。
なお私は知っている。彼女のウイスキー瓶の中身が麦茶であることを。
とにかく私は、思った。
「出会いがないならこの時間使ってSNS婚活すれば万事解決じゃん?」
そう思って内職のように始めたのが「#婚活垢」。
IT営業の技術の粋を結集してプロフを盛り、画像を盛り、そうして始めた。
アカウントは以前使っていたROM垢を流用した。
婚活垢として鮮烈のデビューを果たした私のアカウントは、フォロワー数が2ケタから一気に3,000超えまで伸びた。
私は調子に乗った。
結果、地獄を見た。
来た!超イケメンからのアプローチ!
いくらかのDMは割愛するとして、ある日大当たりを引いた。
イケメンの来襲である。
「3件の新着メッセージ」。
プロフ画がイケメンマッチョで物珍しさもあり、当時スクリーンショットを撮っていたのを発掘した。

古き良きmixiの「1件の日記に新着コメントがあります!」という懐かしのワクワクを彷彿とさせるそのメッセージを、私はワクワクしながら開いた。
「Hello,Um,I’m sorry to tell you this,,but where did you drop your wing?」
確かこんな感じだった。
訳すのも恥ずかしいが、「こんにちは、あのー、突然申し訳ないのですが、どこであなたの翼を落としてしまったのか、教えていただけませんか?」みたいなニュアンスだったと思う。
要するに言われたのだ。
「お前は天使で、その羽根をどっかで落としたんだろう?」と。やられた。
(※ちなみにこれが海外では使い古しの、何なら手垢のついたナンパ文句らしいことを知るのはずっと後の話)
何にせよ、プロフからメディアまですべて見た結果、私が今までの人生で出会った中でもトップクラスの美形だった。
出来すぎているが、当時の私はふわふわと舞い上がっていた。天使だけに。
私は即座に返信した。なおGoogle翻訳にはこの場をお借りして御礼を言いたい。色々とありがとうございました。
日々のやり取りで深まる仲
それからというもの、スケベ次長も営業T君も麦茶ウイスキーエセ酒豪Iちゃんも、正直もう相手していられなかった。
ジョン(仮名)だ。
時代は米韓ハーフのジョンだ。
彼とのやり取りで分かったことは、ジョンは米韓ハーフでチェジュ在住。

職業はフリー(?)の医師。副業としてインベスターもしているという。筋トレを欠かさない。
※同僚のドクターがどうこう言っていたので、フリーの意味は正直よく分からない。ド○ターXみたいな設定だったのだろうか。
あとこれが私的に一番ツボだったのが、親日家ということだった。
彼の国ではやっぱり、どうしてもそういう教育も多いらしく、彼はハーフという背景からも、それを嫌がっているのだという。
そして極めつけは私の考えにマッチしていることだった。
私は「恋愛するなら可能な限りイケメン」で、結婚するなら借金のない人、と決めている。これはSNS婚活を始めるずっと前から変わっていない。
そしてジョンはどうかと言えば、職業が医者(たぶん外科)、ついでに投資もするくらいのお金を持っていて、性格は穏やか。つまり借金はない。
顔は文句なしの美形で、背も高い。
完璧すぎる。理想的だ。
完全なる勘違いのはじまり
そんなこんなでやりとりを続けているうちに、また新たな問題に直面した。
私はジョンのタイムラインを見て絶望した。金持ちすぎる。
私も就職してからずっと貯金しているので多少の蓄えはあったけど、レベチもいいとこだ。
まずストーリーズには船で優雅にクルージングしている映像が週に2~3回ほどアップされる。ジョンが優雅に船でダンスしたり、腹筋したり、瓶ビールを飲んだりしている。
※後にジョンから届いた動画の切り抜き。明らかにチェジュじゃないけど、気づく余裕はなかった
そして投稿には高そうな車の写真。
その車のメーカーを調べてみると、もはや聞いたことの無いような超高級自動車メーカー。
そして私は悟った。
「あ、これ、マジもんだ」と。
医師で美形でマッチョで海外住みで投資家で、さらにどうやら私を天使だと思っている。
ここまで揃った人間に、果たして出会えるものなのか。
(結論、出会えていなかったが)
事実、ジョンは朝となく夜となく、私に話しかけてくる。
「あのドラマ見ました?僕あの俳優好きなんですよ」
「今日の予定はなんですか?僕はオペが1件だけ。後は筋トレです」
「お仕事頑張ってくださいね。でも、男の人とは関わらないで欲しい、、僕だけの天使でいて下さい(笑)」
一事が万事、こんな感じである。
私は完全に勘違いしていた。
私は、大幅な玉の輿に乗る。
セレブ妻に、私はなる。
と。
医師の秘密の投資ネットワーク

ジョンとのやり取りが始まって2ヶ月。
もはや交際関係だったと思う。傍から見ても、まず100人が100人「付き合ってる」と言うだろう。
そういう付き合いをしていた。
事実ジョンからも「ハニー、僕の腹筋どう思う?」と際どいところまで下げた画像も来たし、私もそれなりのものを送ったりしていた。
中学校の頃に受けた「インターネット講習」なんて完全に飛んでいった。プライベートな画像も動画も送った。そうしたかったからだ。
結婚の話も出た。お互いの生い立ちもかなり深いところまで、話した。
その上で、ジョンは「ハニー、一緒に投資をしないか?僕が所属している医師のコミュニティで、限られたメンバーで投資をしているんだ。仮想通貨だ。」と申し出た。
さすがの私も、ここで「ははーん」と思った。自慢じゃないがこういう話は昔からカンが鋭いのだ。
「投資で大儲けしよう」というのは、実はよくある手口である。
その瞬間、私の頭の中に稲妻が走った。
「私は、騙される。絶対に、詐欺に遭う」
私はこれまで、数々のネット上の詐欺を見てきた。
心のドアが閉じる音を聞きながら私は「ごめん、それは詐欺だと思うから関係も終わりにしよう」とジョンに伝えた。無表情だった。
「何を勘違いしているんだ、ハニー。僕のコミュニティはとても厳格かつ秘密主義で、友人
は紹介できない。僕は「婚約者」として正式に紹介したいと言っているんだ。」
心のドア、再び全開。
初入金のご褒美は・・・
一週間後。
結局、私はコインチェックという正規業者で1万円ほど仮想通貨を買い、ジョンの指定する取引所に入金した。
1万円なら惜しいけど惜しくない。彼を試す気持ちもあった。
結果。プラス6万。儲かった。
それも出金できてしまった。私の地方銀行の普通口座に。
ジョンは言った。「ハニー、信じてくれたかい?次は通話しながら、一緒にもっと投資しよう。」
セレブ計画が私の中で始まった。
ジョンは、本物だ。利益も出た。知識もある。
なら、私は貯金を全部叩いてでも、ジョンと一緒に稼いでみたい。そう思った。
ジョンに、私の計画を伝えた。
「まずは300万貯めたい。月に10万円投資する。そして、ジョンと結婚する。」
ジョンは答えた。
「それじゃ遅いよ、ハニー(笑)。今すぐ始めよう。君には、その資格がある。」
私は、ジョンを信じた。
マイナス622万、揺らぐ彼の実像
3ヶ月後。信じてもらえないかもしれないが、戦績プラス3,800万となった私がいた。
つぎ込んだのは、622万と8,000円。22万と8,000円は、私がリアルに送金をミスしたか何かで出た純粋な損失だったと思う。
とにかく、差し引き3,177万ほど儲けたことになる。
しかし、結論から言うとこの3,800万は出金することが出来なかった。
最初はお金をつぎ込み、利益が出たらこまめに出金してきた。30万くらいは出金出来ていた。それもすべて後から突っ込んだ。
しかし、いつからかジョンに「毎回出金していたら時間がもったいない、ある程度溜まったら出金するんだ」と言われ、そうしていた。
ある日、有頂天の私は3,800万だとまだ退職は早いな、とか、いやいや、ジョンと結婚して韓国に移住して、そこでのんびりフリーランスも良いな、とか、考えながら出金手続きをした。
結果、エラー。
それも不親切極まりない「Unknown Error:」みたいな表示だった。
初めて事務局に連絡する。

結果、「利益が大きいため、事務局で精査したところ日本国籍の場合は出金までに8週間以上かかる可能性がある」とのこと。
「なんだそりゃ」と思ったが、まあ、国際送金には時間がかかることは仕事上理解している。仕方ないので待つことにした。
その旨をジョンに伝えると、ジョンは「分かった。僕が何とかするから待っていてくれ」と言ってくれた。
ジョンは、いつも私のことを考えてくれている。私のために、行動してくれる。
しかし、これが根幹から崩れる。
取引所が、突如として閉鎖された。本当に、何の前触れもなく忽然と消えた。
ジョンにすぐさま連絡したら「何だって!?不幸なことに僕もちょうどいま難しいオペの応援でアメリカに行かなくてはならない。しかし、やれるだけの事はやろう」という。
お察しの通り、ジョンからはその後、連絡が無くなった。
恋愛ロマンス詐欺・・・?
恋愛ロマンス詐欺。
絶対にないと思い込み、「もしかすると私は詐欺師に騙されかけているのではないか」など、思ってもみなかった。
テレビの特集も見た。SNSも見た。同じ様な話も見た。しかし、私は違うと思い込んでいた。

こんな堂々と「大きく増加!」と言われるような情報も、目にはしていた。
そこで、一つの書き込みに目が行った。
「もし海外の彼氏を疑いたくないなら、地域特定URLを使ってみるとよい」というものだった。
簡単に言うと、そのURLをスマホやPCから見ると、だいたい何処からアクセスしているかが分かる、というものらしい。
ジョンはちゃんとアメリカか、最悪でもチェジュからアクセスしてくれるはず。
私は祈るような気持ちで「ジョン、仕事で大変だと思うけど大丈夫?新しい下着を買ってみたから、写真を送るね」と、そのURLを貼り付けて送ってみた。
こうすると食いつきが良いとSNSで見たからだ。
ここからは、ぜひ一緒に結果を見てほしい。

カントリー:ガーナ。
Wikipediaによると東にトーゴ、北にブルキナファソ、西にコートジボワールと国境を接し、南は大西洋に面する国で、首都はアクラ(Accra)らしい。通貨は「セディ」。

とにかく遠い。
終わった。どう考えてもジョンの現在地は、ガーナではない。
しかし、データはガーナを示している。
つまり私は「米韓ハーフのイケメン投資家医師を装い、ガーナからメッセージしてきている正体不明の誰かと恋愛関係になり、いろいろ画像を送り、さらに620万の投資までしていた女」ということになってしまう。
面白すぎるが、面白くない。何もかもが終わった。
それからというもの、警察、弁護士の無料相談、消費者センター、あらゆる方法で私は被害を訴えた。しかし、誰もが面倒そうにしていた。
警察なんて「あ、はい、じゃあこれ、相談番号ね。はいお疲れさん。」くらいの勢いで、全くと言っていいほど動いてくれることはなかった。
唯一、私の話を真剣に聞いてくれたのが「消費者センター」だった。
「あ、それはたぶん詐欺ですね」と返ってきた。それだけだ。それ以上の回答はどうやら持ち合わせていないらしく、テンプレ通り弁護士や警察へ~、という案内だけがむなしく帰ってきた。
なお、後に私は「この事実は(情けなくて)誰にも言えない」という重圧に耐えられなくなり、ブログを始めることとなる。
内容はもちろん「海外投資で大儲けしたけどそれは夢で、実際はとんでもない相手に騙されてた」という内容だ。私なりのケジメだ。それがこの記事、ということになる。
恥を忍んで、夏。

今からちょっと前のこと。
私は恥を忍んで、とある人物に相談した。それもボロッボロに泣きながら。
情緒ジェットコースターの私を前に、注文したコーヒーを飲んでいるのは元カレ。
5年前、当時司法修習生だった彼は、私のこういうところに嫌気が差して私の前から姿を消した。
その後弁護士になり、別の女性と付き合ったとも聞いていたが、まさかこんなところで会うとは思わなかった。
ちなみにLINEは消していたので彼の名前をググり、出てきた事務所に電話して「以前交際していた〇〇と申しますが、〇〇さんに非常に緊急かつ重要なお話がありまして・・・」と電話番号を伝えてとりなしてもらった。
我ながら策士だと思うけど、彼からしたらたまったもんではない。と思う。
当時散々迷惑を掛けた相手に私は、再び面倒を持ちかけている。
自分でもどうかしていたと思う。テンションがおかしかった。
店員さんがどちらを気遣ったか分からないが、コーヒーのおかわりを勧めに来た。
彼は苦笑いでコーヒーを追加注文する。
そして、彼は冷静に教えてくれた。
あそこの事務所はデジタル系の調査に強くて、最近は特にロマンス事案も扱ってるって聞いたことがある。相談してみたら?
奥から何事かと男性店員が出てくる。違うんだ、別れ話ではないんだ。
・・・あった。ほら。これ。東京中央信用調査で検索して・・・
こうして私は調査会社の連絡先と、ついでにちゃっかり元カレの連絡先もゲットして帰路についた。
決意の朝
と、ここまで書いて、話はリアルタイムになる。
私はこの後、東京中央信用調査に正式な相談を持っていく。
あれからSNSでも色々調べた。結果、いい話も悪い話もあった。けど、IT営業に身を置く私としては、口コミは結局当てにならないところがあるというのが持論だ。
軽い相談をした感じだと対応もしっかりしていたし、迅速ではあった。
少なくとも、過去に相談したどの事務所・機関よりも丁寧で、詳しく、話が通じやすかったのはここ。
私は必ず取り戻す。ガーナに居るかもしれない、ジョンの幻影とは決別していきたい。
そんな決意表明のエントリ。最後にもう一度。
「恋愛ロマンス詐欺にはマジで気をつけろ!!!!!!」
そして
「ダメだと思ったら適切な相談先に相談しよう」
これだけ。